「おや、さんはお休みですか?」


そう生徒達に聞くと、どこかから「今日はまだ見てない」や「あれ?ちゃん来てないの?」などの声があがった。


「誰も知らないんですか、あとで連絡とってみますね」


そう言ってその話は止めにした。

教室を後にして望は職員室に入る。
名簿を持って電話の前までいき、ページを捲り目的の人物の名前で手を止めた。
そして番号を入力する。
プルルルルと音がしてそれが数回鳴った。


『はい、です』
「おはようございます、さん。担任の糸色望です」
『声でわかりますよ、糸色先生』
「そうですか?私もアナタだと声でわかりましたよ。ところで、今日はどうしたんですか?」
『あぁ、連絡するの忘れてました。ごほんっ!風邪引いたので学校休みます』
「・・・ずる休みですか?」
『とんでもない、これでも熱が38度はあります。自称ですけど』
「そうですか、お大事に」
『あ!先生信じてませんね、今一人ぼっちで家にいて寂しいしつらいのに・・・ごほごほごほうぇっげほげほっ失礼します』
「えっさん!?」


受話器に向かって名前を呼ぶが、ツーツーツーと機械的な音だけが聞こえていた。
彼女の不自然な電話の切り方が気になったが、望は次の授業へ出るため受話器を置いてその場を後にした。
しかし、時間が経つにつれてのことが気になっていった。
まだ彼女の担任となって日は浅いが、いつもあきれるほど元気なのに今日は何だか違うと思った。
望は違和感を感じたまま授業を行い、そして放課後になっていた。


「糸色先生、今日は早いんですね」


職員室に戻り荷物を片付けて出て行こうとすると知恵先生とすれ違った。


「はい・・・ちょっと家庭訪問に」


そう言って望は足早に学校をあとにした。

「ここですか・・・」


望は住所が書かれた紙を手に持ちの家の前に立っていた。
見上げるその家は普通の住宅街にある一軒家だ。
もう日も暮れかかっていて辺りは薄暗いのに目の前の家は明かりがついていなかった。
人がいる気配もない。
段々とのことが心配になってきて慌ててチャイムを鳴らした。
ピンポーンピンポーンと数回鳴らしてみたが反応がない。
望はドアのもち手を回してみた、すると鍵がかかってないらしくドアは開いた。
しかし、これでは不法侵入だと思い一度ドアを閉めた。
そのとき、家の中からドドドドドっと何かが落ちた音がして望は思わずドアを開け。


さん!大丈夫ですか!?」


ドアを開けると先ほどはいなかったが視界に入ってきた。
ドアの奥に位置している階段から滑り落ちた格好では望に向かって笑いかけた。


「こんばんわ先生、こんな格好ですいません。ピンポンって鳴らしてたの先生だとは思わなくて」
「それはどうでもいいです!勝手にあがりますよ」


望は急いで家の中へあがった、は尻餅をついたままで腰をさすっていた。


「階段から落ちたんでしょう?腰を打ったんですか?」
「ちょっと目の前がくらぁとして、ドドドドっと数段落ちましたけど大丈夫ですよ。ほら・・・っ!」
「無理しないでください、アナタの部屋2階ですか?」
「そうですけど、先生?」
「大人しくしてください」


それだけ言うと望はを抱き上げ、階段を上り始めた。
ピピピっと音がなり望はを見た、は苦笑しながら脇に挟んでいた体温計を望に手渡した。
望に抱きかかえられ、は自室へと運ばれた。
ひょろひょろとしたイメージを持っていたのに平然と自分を運ぶ望の顔をは下からじっと見ていた。
その後ベットに寝かされ布団を被せられ「体温計はどこですか?」と聞かれ「どこいったかな?」と誤魔化そうとしたがすぐに見つけられてしまい、無言で手渡された。
その体温計を仕方なく渡すと望は、は〜と息を吐いた。


さん、熱38度2分もあるじゃないですか。大人しく寝てなさい」
「・・・糸色先生が急に来るのが悪いと思います」
「それもそうですね、すみませんでした。・・・朝疑ったりして」
「あぁいいんですよ、もふざけてましたし。ふふふ誰かいると落ち着きますね」
「そういえばご家族は?」
「姉と兄がいるんですけど、仕事でいつ帰ってくるかわかりません」
「そうですか、では一人っきりなんですね」
「先生がいるから、二人っきりですよ」


はそう言って笑った。
望もつられて笑ったがすぐに真面目な顔になった。


さん、この間の話なんですが」
「・・・好きって話ですか?」


は望の真面目な顔を見て苦笑いになった。


「そう、それです。あのときは生徒と教師がどうのこうのとい言いましたけど・・・今日のことがあってわかりました、私はさんが好きなようです」


望は恥ずかしいのか少し俯きながらそう言った。


「今日わかったんですか?」
「・・・とゆうかさっきです、腰大丈夫ですか?」
「はい、もう痛くありませんよ。えへへ、何だか嬉しいですね。そうだ、先生!2人でいるときは名前で呼んでください」
「えっ?・・・そういえば苗字で呼んでますねぇ、改まって言おうとすると恥ずかしいもんですね・・・、さん」


「先生可愛い」
「やめてください、落ち込みます」


そう言って頭を垂れた望には思わず笑ってしまった。
望の照れたように笑った。


「糸色先生、が眠るまでここに居てくれませんか?」
「構いませんよ、鍵かけて帰りますね。物騒ですから」
「これあげます、合鍵」


は身を乗り出して机に置いてあった鍵を渡した。
望は一瞬驚いたようだったが、笑って鍵を受け取った。


「先生、おやすみなさい」
「おやすみなさい、早く良くなってくださいね。さん」