今年ももうじき『バレンタインデー』がやってくる。
店の前にはチョコレートの箱が山積みになっている。
は、そんなこの季節定番の風景を見ながら学校へと向かった。

「男子生徒のみなさん、もうすぐバレンタインですね」


教室に入ってきた糸色先生がそう言った。
教室は少しざわざわしたが、「好きな子の好きな子が分かる日ですね」と先生が言うのでみんな嫌そうな顔をした。
「そしてそれは九分九厘自分ではない」と先生がさらに追い打ちをかけるので、「なんでそんな絶望的なこと言うんですか!」と男子生徒が非難の声をあげた。
だって絶望先生だもの。


「ほとんどの男子にとっては普段買ってるチョコがただ買いづらくなるだけの日々なんですよ」


一つの本命チョコに対し29の義理チョコが存在し、さらに300人の貰えない男子がいると言う先生は「むしろ禁チョコ月間!」とまで言い放った。
もそうだが、貰える男子は少人数だけなんだろうなと誰もが思っていた。

しかし、そんな絶望的なバレンタインに奇跡が起きた。
朝学校に行ってみると何故か男子たちが嬉しそうにしていた。
教室に入ってもそれは同じことで、近くに居た奈美ちゃんに理由を聞くと「みんなチョコが貰えたんだって」と言った。
えっ、本当に?
そうしているうちに糸色先生が教室に入ってきて、「チョコだー!」と叫んで喜んでいる男子たちを見て驚いている。


「えーと、私には?」
「ないよ」
「だって、先生あげると文句言うじゃない。」


みんなに断られていた先生がの方を見る。
目が合ったけど、逸らしたら「さん!?」と非難の声をあげられた。
すると黒板に手をついて「・・・あーあ、文句言いたかったな。いろいろ考えてたのに」と落ち込んでいた。


「でも、誰がチョコをあげたんだろう?」


何となく気まづくなってしまって、そう声をあげると「むしろ貰えなさそうな男ばっかり貰ってるけど」とカエレちゃんが言った。


「中に何か入ってるぞ!」
「恋文じゃないのか!」


そんな声が聞こえて近づいて見ると、チョコの中から金色の紙が出てきた。


「ゴールデンチケット?」


えっ、まさか、本当に?

放課後。
は糸色先生を探していた。
どうやら学校には居ないようなので携帯に連絡すると「チョコレート工場に居ます」と返事が返ってきた。
チョコレート工場って、あのチケットの・・・。
気になって仕方がないはその工場に向かって走りだした。
工場の門の所に糸色先生が居たので声をかけると「あのチケットはチョコレート工場への招待状だったんですよ!いいな!」と目を輝かせている。
チケットを手に、次々に中へ入っていく男子生徒を見て先生は「私たちも見学しまよう!」との手を引っ張った。


「お兄さまたちはダメです!」


急に声がして、その声に先生が歩くのを止めたのでは勢い余って先生の背中にぶつかってしまった。


「倫!」


先生の影からのぞくと倫ちゃんが立っていてさっきほどと同じ言葉を繰り返した。
「この工場に招待した男子には一定の基準があるのです」と言って倫ちゃんはあたりを見渡した。
も見渡してみると、そこに居る男子たちはお世辞にもかっこいいとは言えない人たちばかりだった。


「みんな女性に縁のない、童貞の男子たち」


「童貞の男子・・・?」と先生がつぶやいたのを聞いては「まさか!」と思った。


「そう、つまり『チェリーとチョコレート工場』!」


あまりに倫ちゃんが楽しそうに言うのであえて、つっこまないでおこう・・・。
糸色先生とがリアクションを取らないでいると、「お兄様なら喜んでくれると思ったのに」と倫ちゃんが言った。
「そんなくだらないこと言いたいがために、こんな大掛かりなことしたのですか!」と先生が言うと倫ちゃんは「ちゃんとビジネスも考えてのことですわ」と言った。


「とはいえ私もチョコレート工場には興味ありますね、見せてくださいよ!」
「男女のべつまくなしやんちゃな時期のあったお兄様はお入れできません」
「えっ先生、そんなやんちゃだったんですか?」
「人聞きの悪いこと言うな!さんもからかわないで下さい!」


倫ちゃんからまさかの発言があったので、先生をからかうととても慌てていて、何だか可愛らしかった。


「先生ー」


そんなやりとりをしていると可符香ちゃんたちがやってきた。
どうやらみんな考えることは一緒なようで、工場見学に来たらし
い。
「あげるチョコがちゃんと作られてるか知りたいし、ガとか入ってたら嫌だし」と奈美ちゃんがもっともな意見を言うと、先生がそれに乗っかって「見学拒否すると何か見られちゃいけないものでもあるのかと勘ぐられますよ」と言った。
すると倫ちゃんは「仕方ない、特別だぞ」と可愛らしく拗ねているが、どうやらたちは工場を見学できることになったらしい。

倫ちゃんに案内されて工場内を見学するたち。
糸色先生が「わりと普通の工場じゃないですか」と言ったように、特に変わった様子のない工場のように見えた。
作られたチョコレートが流れるラインを見て奈美ちゃんが「普通の板チョコが作られてるけど」と感想を漏らした。
すると倫ちゃんが「板チョコじゃない」と言って、それを一つ手に取った。


「痛チョコだ」


・・・え、倫ちゃん?
痛チョコとは、自分で買ったチョコとかお母さんに貰ったチョコとか、アイタタタなチョコレートのことを言うらしい・・・。
するとあびるちゃんが「あげる側の痛チョコってのもあるよね」と例を挙げていった。
その言葉を聞いて千里ちゃんが急に「リアルな痛チョコとか言うなあぁ!」と叫んで先生の首を絞めようとした。
思わず「何が?」とつっこみをいれてしまった。


「糸色製菓では新しいバレンタインの提案を考えいるのです」


「まず一つは」と続ける倫ちゃんは「贈るカカオの%で好き度を知らせると」と言った。


「それじゃぁ、好きな人程苦くなるんじゃない?」
さん、倫の肩を持つわけじゃありませんが、本当の愛って苦いもんじゃないんですかねぇ」


先生が真顔ですごいこと言ってるー!
「100%の愛なんてそりゃぁ苦いでしょう!」と言う先生の90〜95%の時点で殺したり心中したりしてるので100%を考えるとぞっとした。
苦いと言うか、重いですその愛・・・。


「このレーンではどんなチョコが作られてるのかしら。」


そうつぶやいた千里ちゃんの声が聞こえてそのレーンをのぞき込むと、中身が1/3しか入っていなチョコが流れてきた。


「3倍返し防止チョコじゃ」


そう可愛らしく倫ちゃんは説明してくれたけど・・・つまりお返しはチョコ1個でいいってことらしい。
「100%本気の愛には、100%本気の愛でしか返せませんよ!」と先生は3倍返し制度について語る。
そして「本命と言いつつ1/3しか愛を贈らないバレンタインに絶望した!」と先生が叫んだ。


「きっちり1/3の愛の告白を!」


そう言った千里ちゃんは「糸色くんのそーゆうとこ、嫌いじゃないな。」とさわやかに可愛らしく言った。
たしかにそれは、1/3くらいだけど・・・。

チョコレート工場の見学も終わり、それぞれが帰路についた。
は糸色先生を追いかけて、着物の裾を掴んだ。


「糸色先生!」
「おや、さん。どうしたんです?」
「100%の愛には100%の愛で返してくださいね!」
「えっ、ちょっとさん!」


持っていたチョコを先生に押し付けて、は来た道を走り出した。


「ホワイトデーまで待っててくださいねー!」


走っている途中で糸色先生の声が聞こえて、思わず笑ってしまった。