2月14日、今日は聖バレンタインデーである。


「すごーい先生」


教卓の上にはラッピングされた箱が山積みになっている。
いわずと知れたバレンタインデーのチョコレート等のお菓子である。
よくこんなに積み上げたなぁとは思った。
糸色先生が教室に入ってきて、少し間を空けてから「どうせクーリングオフする気なんでしょう!」と言い放った。
クーリングオフってあれですよね、一定期間なら申し込みを撤回したり契約を取り消したりできる制度のことですよね。
頭を冷やす期間だって家庭科の授業で習いました。


「やっぱなかったことに、って取り消しされるに決まってます!」


クラスの大半が唖然としているなかで先生は実体験の様に語り続けた。
「正式のお返事をいただく3月14日まで1ヵ月もあります。1ヵ月もあれば心変わりもします」と遠くを見ながら先生は言った。


「悲劇を引き起こさないためのシステム、それが恋のクーリングオフですよ。いっそクーリングオフされる前に、まだ好かれているうちに死んでしまいたい!」


糸色先生が首吊りをしようと縄を首にかけようとしているので、「聞いたことありません、チョコのクーリングオフなんて!」と先生に言って首吊りを妨げようとしたら、見知らぬ人が現れた。
奈美ちゃんが「誰?」と聞くとその人は「製菓会社の方から来ました」と言った。


「バレンタインの7日後2月21日は、愛取り消しの日!」


・・・何ですか、それ!!
聞けば、バレンタインの取り消しにグミを贈る日だとか。


「またお菓子を贈るんですか・・・」
「商業主義のニオイがプンプンしますね!」


糸色先生の言う通りです!
大体好きじゃなくなった人に、お金なんて掛けられないよ!
が心の中で切ない女子高生の経済状況を叫んでいるうちに先生と製菓会社の方で話が進んでしまっていた。
「愛、無かった事に――ラヴクリデー」って言うキャッチコピーで商売出来そうな勢いに!
そして、あびるちゃんに冷静につっこまれて「何でも撤回できる日」に発展。
外を見ると取り消された人たちが集まってクーリングオフ会が行われていた。


「・・・やっぱ今回の話、無かった事にしませんか?」
「何ですか、急に」
「なんかイマイチネタが広がらなさそうだし、辛い感じになってきたので、クーリングオフします!」


糸色先生、結構ノリ気だったじゃないですか・・・。
そして、はじめからもう一度やることに。
先生が入ってきてすぐに、詰まってしまった。
千里ちゃんに「そう簡単に止められない事だらけなんです!」と言われ、「私たちの関係は今更引き返せません。きちんと正式な夫婦に」と婚姻届を差し出されている。
だから、何があったんですか先生・・・。
例のあの日のことについて先生が「クーリングオフします」と言った。

その後発見された糸色先生は数個の花瓶(壷?)で殴られて倒れていた。
息も無いし、脈もなく、奈美ちゃんたちが「死んでる!」と騒いでいる。
まさか、糸色先生が死ぬなんて・・・。
先生の遺体の傍で呆然としていると、先生が急に動きだした。
「天国にもクーリングオフされる始末」と先生は涙を流していた。
このクーリングオフはされてよかった、とほっとした。
の隣で千里ちゃんが「良かったぁ。死んじゃったらどうしようかと思った。」と言ったので、千里ちゃんも心配してたんだなぁと思いそちらを見ると、手にはスコップが握られていた。
何故だか寒気がして、その場で数歩後ずさってしまった。

放課後。
チョコが入った袋を抱えて帰ろうとしている糸色先生を見かけて、走って行ってその横に並んだ。


「糸色先生、チョコレートいっぱい貰えてよかったですね」
さん、でもほとんどクーリングオフされるに決まってます!」
「まだそんなこと言ってるんですか?も先生にチョコもってきたんですけど、その様子じゃ快く受け取ってもらえないみたいですね」


鞄からラッピングされた箱を取り出して、軽く振ってみる。


「えっ?私にチョコをくれるんですか!?是非下さい!!あっ・・・でも1ヵ月後までさんの気持ちが変わらないとは言い切れないし、でも!!」


先生は袋を抱えたままで頭を左右に振って、「下さい!でも・・・いや、しかし」などと繰り返して言っている。


「じゃぁ、こうしましょう!はい、からのチョコレートです受け取ってください」
「えっあ、はい」
「で、先生がもうお返事しちゃえばいいんですよ。が先生のこと好きなうちにお返事聞かせてください!」
「えぇ!?今ですか?えっと、あの・・・私もさんのこと好きです、よ」
「ほら、これで一件落着です!は1ヵ月後もこの先も糸色先生のこと好きですよ」


そう言うと先生は照れたように笑った。
「でも、お返しするものがありません」と言う先生のマフラーをぐっと引っ張って唇に触れるだけのキスをした。
「これで十分ですよ」と言ってマフラーから手を離すと先生が赤くなっていたのが見えて、笑ってしまった。
糸色先生、ハッピーバレンタイン!