2のへ組には変わり者の生徒が多い。
超ポジティブ少女やひきこもり少女、女子生徒から男子生徒まで個性的な生徒が多い。
もちろん担任の糸色先生も、一際個性的だ。
そんな2のへ組の生徒、も当然のように変わり者だった。

新学期が始まって数日。


「おや?さんはどうしたんですか?」


授業中に糸色先生が訊ねた。
今日は休みはないはずだが、席が一つ空いていた。
学校にひきこもっている小森霧も出席を確認していたので、先生は出席簿を見直した。


「あの〜、ちゃんは知恵先生のところに行ってると思います」


日塔奈美が挙手をして控えめに答えた。
糸色先生は首をかしげた。


「知恵先生のところ?・・・担任には言えないようなことを相談をしているんでしょうか?・・・どうせ私は頼りないですよね」
「先生、それは違います!ちゃんは知恵先生を口説きに行ったんですよ」
「口説きに・・・!?」


風浦可符香がそう言うと教室はしんとした。
丁度そのとき、ガラガラと音を立ててドアが開いた。


「すいません、知恵先生と話をしていたら遅れてしまいました」
さん、知恵先生と何の話を・・・」
「カウンセリングの先生ですから、悩み事の話ですよ、もちろん」
「そっそうですよね・・・授業続けましょうか」


何事も無かったようには席に着いた。
その様子をみて先生も生徒達も、何事も無かったように授業を再開した。
糸色先生のの印象は、「大人しくて真面目な子」だった。
美人で凛とした雰囲気を持ったは「大和撫子」のイメージにぴったりだと思っていた。

ある日の放課後、偶然教室の前を通りかかった先生はまだ生徒が残っているのに気づいた。
教室に残っていたのはで、窓際の席に座ってぼんやりと外を見ていた。


「どうしたんですか?さん」
「糸色先生・・・ぼ〜としてました」
「・・・悩んでいることがあったら私に言ってくださいね、さんは真面目な生徒なので先生贔屓しちゃいますよ」


糸色先生はの前の席に腰掛けた。


「悩み、ですか・・・」
「えぇ、ほら知恵先生に相談したことなど!・・・やっぱり私には話したくないですよね、頼りないですよね」
「そんなことないですよ、先生。は糸色先生のそうゆうところ、好きですよ」
「えっ・・・んぐっ!?」


がにっこりと笑ったと思ったら先生の着物の襟を掴んでぐっと引き寄せ、唇を押し当ててきた。
突然のことに反応できないまま、唇はすぐに離れていった。


「なっ何をするんですか!?」
「糸色先生って可愛らしいですよね。今一番の悩みは、先生が可愛らしすぎて困ることですかね」


そう言うとは荷物を持って立ち上がり、「では、さようなら」と言って教室を出て行った。
残された先生は、放心状態のまましばらく動けなかった。

糸色先生はいきなりキスをされてからのイメージが壊れてしまい、彼女について生徒達に聞いてみることにした。
さん、ですか?・・・休み時間になると他のクラスの女子が頻繁にきますね、手紙やお菓子をもらっているみたいですよ」とある生徒から言われ、「手紙?」と聞き返したら「はい、ラブレターですよ。ハートのシール貼ってありましたし、本人がそう言ってました」と答えられた。
また別の生徒に話を聞くと「ちゃんって美人でかっこいいですよね、紳士的で優しいし女の子から人気あるんですよ!」と言われ、「よく女の子を口説いてるのみかけますよ」とさらっと言われた。
先生はこれらの証言をもとにを警戒していたが、目が合っても無視されるし廊下ですれ違っても無視され、自分の方から声をかけることにした。


さん、ちょっといいですか?」


お昼休みに教室にいたを空き教室に誘うと「はい、何ですか?」とついて来た。


さん!この間のアレは何だったんですか!!」
「アレとは?」
「キッスのことですよ!先生は引っ掛けられませんから!教師が生徒に手を出したのではなく、生徒が教師に手を出してきたんですからね!PTAとかに報告すると脅されても動じませんからね!!」
「ああそのことですか、脅すつもりはないんですけど」
「絶望した!!すぐにセクハラだと言って逆らえない権力に頼る女子高生に絶望した!!」


先生はそう叫んで、がっくりと肩を落とした。
はその肩に手をポンと置いてにっこりと笑った。


「先生、落ち込まないでください。そんなことを企んでキスしたわけじゃないですよ」
「・・・では、他にどんなわけが?あたなが女の子好きだと言うことは調査済みですよ」
「女の子も好きですけど、糸色先生も好きですよ。言ったじゃないですか、この間も『好き』だって」
「・・・ですが、あなたは生徒ですし」
「性別を気にしないので、今更立場なんて気にもしませんけど。先生、キスしてからのとこ気になりませんでした?どうして無視するのか、とか」
「確かに、色々な意味でさんのことばかり考えていたような気がします・・・不本意ですが」
のことお嫌いですか?」
「・・・どちらかと言うと、好きですよ」
「ほら両思い、はい一件落着!」
「え!?そんないい加減でいいんですか??」
「はい、大丈夫です!」


が強引に話をまとめたとき、ドアが開いた。
可符香が顔を覗かせて「ちゃん次体育だよ」と言い、は「ありがとう可符香ちゃん、すぐ行くよ!」と先生を残したまま行ってしまった。
先生はその後ろ姿を見ていたが、しばらくしてため息をついて空き教室から出て行った。