好きな人が出来ました。
でもその人はとても人気者で。
私には到底手の届かない人でした。
だから私は、ただ見ているだけで満足だったのです。
海常高校に入学した私はバドミントン部に入部した。 クラスは女子と男子が半々くらいのクラスで、運動部が多いらしい。 出席番号の近い女の子と仲良くなった。 特に問題もなく、高校生活が始まっていた。 「ちゃんって彼氏とかいないのー?」 「いないよー、好きな人もいないのにー」 「もったいないよーきれいな顔してるのにね」 「そんなことないからね、皆みたいにお化粧してみたいよ」 「ちゃんはすっぴんで充分だから大丈夫だよ」 たまには女子っぽい会話もしてみる。 同じクラスの女の子はギャルっぽい子もオタクっぽい子も普通な子もいる。 ギャルっぽい子は特に目元のメイクをしているようで、たまに先生に注意されていた。 私はメイクに興味はあるけど、知識がないので手は出していなかった。 運動部なのにお化粧をするって言うことに抵抗があったのが一番大きいけど。 女の子は恋愛の話とオシャレの話が大好きだ。 誰と誰が付き合っているとか、誰がヤったとか、誰が好きとか。 思春期だから仕方ないけど、私は興味がなかった。 女の子らしい会話が本当は苦手で、お世辞で「きれい」と言われてもバレないように愛想笑いをして。 「部活あるから」とか「電車の時間だから」と言って、逃げてしまうこともしばしば。 私が抜けたって、ずっとその話をし続けるんだから居ても居なくても一緒でしょ。 と、そんなことを思いながらも人間関係は今のところ順調だった。 「「黄瀬くーん!部活頑張ってー!」」 「ありがとうっス!」 部活に向かう途中で、そんな黄色い声が聞こえた。 視線を声の方へ向けると、女子2名が「黄瀬くん」に手を振っているのが見えた。 そしてその「黄瀬くん」が手を振って、体育館へと消えていくのが見えた。 黄瀬くんと言うのは同じクラスの男の子だ。 背が高くて、金髪で、とても整った顔で、明るくて、バスケ部の男の子だ。 クラスが一緒で、比較的席も近いけど接点はない。 確かにとてもイケメンだと思う、笑顔は可愛らしいし、バスケをしている姿はかっこいい。 とても女の子に人気があるようで、クラスに黄瀬くんを見に人が集まるのもわかる。 黄瀬くんはまるでアイドルのような存在だな、と思って私も部活へと向かう。 「、向うの体育館まで鍵取に行ってきてくれないか?」 「はい、行ってきまーす」 部活の途中、顧問の先生におつかいを頼まれた。 そこまで部員が多くはない部だが、練習のメインは2年と3年だ。 1年は新人戦があるけど、それはもう少しあと。 先輩が練習試合をしている間の1年生は、少しだけ暇なのだ。 だからそのおつかいは丁度いい暇つぶしになるので、私は意気揚々と体育館をあとにした。 と言っても、本館の体育館へ行くだけだから5分もかからないのだけど。 ここは主にバスケ部が使用している、全国大会の常連で強豪なのだそうだ。 体育館への扉を開けると練習の声が聞こえてきた。 男バスがメインで使用しているようで、女子だけのうちとは練習の雰囲気が違う。 邪魔にならないように壁沿いを進んで、奥の鍵が仕舞ってある部屋まで行く。 男バスの何人かは私に気が付いたようで、視線を感じるような気がする。 すぐ行くからそんな見ないで!邪魔してすいません! 内心こんな気持ちだが、慌ててもおかしな人に見られそうなので平静を装って鍵を取る。 その時「こら黄瀬!よそ見してんじゃねぇ!」と怒号が聞こえて、肩が飛び上がった。 「すいませんっス!ってか別によそ見してたわけじゃ」 「先輩に口答えすんな!お前だけ倍にすんぞ!」 「えぇー酷いっスよー」 そんな声を聞きながら来た道を戻る。 どうやら黄瀬くんが先輩に怒られているようだった。 でも仲が良さそうだった、クラスで見る黄瀬くんとはまた違った印象を持った。 体育館から出るときに、少しだけ黄瀬くんを見た。 キラキラとしていて、イケメンだなぁと改めて思った。 「おはようっス!さんって運動部だったんスね!」 「え、おはよう・・・そうだけど」 私は毎朝、早めの電車で来ていてあまり人のいない教室で朝ごはんを食べている。 いつも同じ時間に来て、一緒にパンを食べている女友達はまだ来ていなかった。 そんなときに、黄瀬くんに話かけられた。 クラスメイトだから挨拶くらいはする。 でもそれは「みんなおはよう」と言う感じのあいさつで、個人へ向けられたものではない。 女子はそれをわかっていても「おはよう黄瀬くん!」と元気良くあいさつするのが日課のようなものだった。 その黄瀬くんがこっちを見ながら、私の名前を呼んで、あいさつをして、話しかけてきた! 私はかじっていたパンから口を離し、自分の席へ荷物を下ろす黄瀬くんを驚いて見ていた。 「昨日体育館へ来たっスよね?ジャージだったし」 「う、うん、バドミントン部なの」 「そうなんっスか!なんか勝手に文化部かと思ってたっス!」 「よ、よく言われる・・・」 「おはよーって、黄瀬くんじゃん!今日朝練ないの?」 「おはよっス、今日はないんスけどいつもの感じで早く来ちゃって」 「あーなるほどー、あたし達今から朝ごはんなんだよね、黄瀬くんは食べた?」 「食べてきたっス、2人は朝早いんスね」 「次の電車いつも満員だから早めので来てるんだ、ね!」 「そうなんだ、朝ごはん間に合わないからここで食べてて」 「そうなんっスか」と黄瀬くんが私と友達を見て爽やかに笑う。 そして席について「じゃあ俺は寝るっス!」と言って机に突っ伏して、寝る体制に入った。 私はまだ黄瀬くんから目を離せなくて、しばらくその姿を見ていた。 すると友達が「おーい帰っておいでー」と私の頭を空の紙パックで叩いた。 「いつまで黄瀬くん見てるのさ」 「・・・いや、なんかびっくりして」 「びっくりしたのはこっちだから、が誰かと喋ってると思ったらモデルの黄瀬くんだし」 「そうなんだよ、始めてちゃんと喋った・・・ってモデル!?」 「声でかいから!」 黄瀬くんに聞こえないように小さな声で話していたけど、まさかの「モデル」発言に大きな声を出してしまった。 つられて友達も大きな声を出して、2人して黄瀬くんの様子を窺う。 本当に寝てしまったようで、私たちの話は聞こえていないようだった。 私はルーズリーフを出して「黄瀬くんモデルなの!?」と書き込んだ。 友達が「今人気のモデルだよ!知らなかったの!?」と返事を書いた。 「知らなかった、イケメンだもんね」と書くと「モデルとバスケでモテモテだっつーの」と友達。 「だから女の子がキャーキャー言ってんのか」と書くと「学校にファンクラブもあるから、気をつけなよ」と書かれた。 「気をつけるって?」 「あんまり黄瀬くんと仲良くしてると目を付けられるって噂」 「ファンクラブの子から?」 「そうそう、みんなの黄瀬くんなんだから独り占めしない!ってね」 「・・・イケメンは大変だなぁ」 モデルとは知らなかった。 雑誌とか見ないし、テレビもアニメかお笑いしか見ないから。 背が高くて、金髪で、とても整った顔で、明るくて、バスケ部で、モデルまでしてるとか。 彼はまるで完璧な漫画の主人公みたい。 そりゃあ女の子はみんな憧れるだろう、彼の彼女になりたいと思うだろう。 私はまだ寝ている黄瀬くんへ視線を移した、金髪しか見えないけど、それだけでもかっこいいと思った。 ある日の昼休み、黄瀬くんが女の子に呼ばれて席を立った。 私は友達と教室でお昼を食べる派で、数人の女子とお弁当を食べていた。 教室には他にも男子数人が集まって食べていて、女子も数グループ食べている。 黄瀬くんは誘われれば男子のグループと食べることもあったけど、基本自分の席でお昼を食べていた。 食堂とかに行けば、その先で女の子に囲まれることは目に見えているからだろうか。 昼練やミーティングがないときは、教室でお昼を食べて寝たり、誰かと話をしていた。 その黄瀬くんがお昼を食べ終わったタイミングで、女の子が声をかけた。 「黄瀬くん、今時間いい?」と教室のドアの辺りから黄瀬くんを呼ぶのは、違うクラスの可愛い女子だった。 黄瀬くんは「いいっスよ」と言って、彼女とどこかへ行ってしまった。 「あれは告白だね」 「・・・告白」 「知ってる?黄瀬って毎日のように告白されてるらしいよ」 「・・・毎日」 「今は彼女いないらしいから、みんなチャンスと思ってんのかねぇ」 「そう、なんだ」 なんとなくショックだった。 黄瀬くんがモテることは知っているつもりだったけど、今告白をされているのかと思うと変な気持ちだった。 お昼が終わるチャイムが鳴る少し前に、黄瀬くんはクラスへ戻ってきた。 あの呼び出しを見ていた他の男子が「どうだった?」とか「告白だったのか?」とか声をかけていた。 「ん、想像にお任せするっス」 「告白だったんだろ!あの子と付き合うのかよ?」 「あの子結構人気だよなぁ、羨ましー」 「ご想像にお任せするっス」 そう言って黄瀬くんは笑って流していた。 男子は「イケメンは違うねー」と言ってからかっていた。 クラスの女子も「どうなったんだろ」とひそひそと話をしていた。 私も、どうなったのか知りたかった。 でも、あんなに可愛い子からの告白を断る理由なんてないんじゃないかと思った。 美男美女のカップルなら、ファンクラブの子たちも文句が言えないかもしれない。 お似合いの2人だな、と思って、やっぱりちょっとショックだった。 自分が黄瀬くんを気にしているのを自覚したのは、学園祭の時だった。 学園祭は3年に1度だけ開かれるようで、今回は私たちが1年の今年のようだった。 「1年のときに学園祭ってちょっとついてないよね」と友達が言っていた。 私は正直いつでもよかった、あまり学校行事に興味がなかったから。 「でも3年のときだったら受験もあるからねー」 「だから2年の時が1番当たりなのよ!うちらは惜しかったなぁ」 「そうだよね、学校入って半年くらいで団結して学園祭しろって無茶振りだよね」 学園祭のない年は文化発表会的な、文化部中心の行事が行われるらいし。 学園祭と言えば、漫画やアニメなどでも一大イベント。 女の子が憧れるのはわかる気がする。 好きな人と回りたいとか、告白するなら今、とか。 私たちのクラスは話し合いの結果、縁日を教室ですることになった。 焼きそばとかお好み焼きとかたこ焼きとか、定番そうなものは上の学年がもう決めているらしい。 色々と案があったが、メイド喫茶も他のクラスがするようだった。 どうせなら被らないものにしようと、誰かが言った縁日となった。 縁日と言っても簡単だった。 子供用のプールに水をはってヨーヨーを浮かべたヨーヨー釣り。 手作りの輪投げでは点数で景品が変わり、ストラックアウト的なボール投げの点数で景品がもらえると言ったもの。 運動部の多い、ノリの良いクラスだったのでみんなで協力して準備を進めることが出来た。 「お揃いのユニフォーム作ろうよ!」 と提案があり、紺色の無地のTシャツが人数分用意された。 シャツの前はクラスを書いて、後ろは各自の名前と好きなことを書いていい、とのことだった。 「ちゃん何書く?好きなこと書いていいらしいよ」 「えーどうしよ、好きなキャラの名前でも書こうかな」 「あたしもそうしよ!やばいオタクなのバレるね!」 「わかる人にしかわかんないから、大丈夫!」 そう言って私と友達は自分の名前を大きく書いて、その横に好きなキャラの名前を書いた。 折角の学園祭なのだから楽しまなくては損だと思ったので、ふざけてみた。 学園祭当日は、思ったよりも人が来て大盛況だった。 黄瀬くんはクラスの出し物に、部の出し物に、女の子や男友達に引っ張りだこだった。 ちゃんとクラスの出し物は参加していて、私は偶然にも同じ時間帯に当番だった。 クラスを半分にして当番を決めたので、黄瀬くんと同じ当番になる確率は50%だったのだけど。 当然のように黄瀬くん目当てで女子生徒が大勢やってきた。 その相手に忙しい黄瀬くんに変わって、他のクラスメイトたちで接客や準備をした。 これもある意味分担作業だ、黄瀬くんは大変そうだったけどクラスの売り上げのため犠牲になったのだった。 「黄瀬くんのTシャツに書いてあるのってホントー?」 「え、あぁ本当っスよ」 「えー!じゃあ立候補しちゃおうかなぁ」 そんな声を聴きながら、私はヨーヨーに水を入れて膨らませていた。 ヨーヨー担当なのである、私と男子1人が膨らませる係りをしていた。 子供用のプールに風船を少し沈めて水を入れて、空気を入れる注射のようなものをさして膨らませる。 膨らんだものを輪ゴムで止めるのが少しコツがいるが、慣れると楽な作業だ。 ただ、耳は黄瀬くんと上級生の女子生徒の会話を聞いていたので、その作業を失敗してしまった。 手が滑って、輪ゴムで結ばれていない風船から水が飛び出してきたのだ! 「うわ!さん!冷てぇ!」 「うわぁごめん!大丈夫?って私も結構かかった!あははははっ!」 「笑いごとじゃないから!ってははは!次は失敗すんなよっ!」 「はーい、ちゃんとしまーす」 自分と男子に水がかかったけど、笑って許してくれたようでよかった。 作り直していると、先輩が帰ったのか黄瀬くんが私たちの方へやってきた。 一緒にヨーヨーを作っている男の子と黄瀬くんは良く話す友達だった。 「うわ、床まで濡れてるっスよ、さん大丈夫っスか?」 「え、本当だ、私は大丈夫だよ」 「俺は被害を受けた」 「いや、だからごめんって」 「いやさん笑い過ぎ、絶対反省してないでしょ」 「そんなことないよ、ほら、今度は上手に出来た!」 そう言って出来上がったヨーヨーを黄瀬くんに見せる。 黄瀬くんはそれを見て「上手っスね」と言って、私の手からヨーヨーを受け取りプールに浮かべた。 そしてそのまま私と男子の近くに座った。 「そう言えばさんのTシャツ、これなんっスか?」 「あ、これ?えーと、好きなアニメのキャラの名前なんだ」 「俺はてっきり好きな男の名前かと思ってた、もちろん実在の」 「友達とふざけて書いたんだ、二次元の好きな人だから」 「へー俺はあんまりアニメ見ないからわかんなかったっス」 「さん彼氏いねーの?」 「え、いないよ」 「「ふーん」」 何だその反応、男子と黄瀬くんの声は揃っていた。 しばらく3人でヨーヨーを作っていると黄瀬くんが女の子に呼ばれて行ってしまった。 その背中には「涼太、彼女募集中!」と書かれていた。 男子とふざけて書いていたような気がする、けど本当に募集中なのかもしれない。 さっきの先輩のように立候補する女の子がいるかもしれない。 そしたら、気に入った子と付き合うのかもしれない。 そこまで考えて、やっと。 私は黄瀬くんが好きなんだと、気が付いた。 「ちゃーん、休憩いこー」 「・・・うん、行こうか」 「どうしたの?元気ない?」 「ううん、お腹減ったなーと思っただけ!」 「じゃあ何か買いにいこー!」 女の子数人に囲まれている黄瀬くんを横目に、私は教室を後にした。 好きだと気が付いても、どうすることも出来ない。 そんなこと初めからわかっている。 ただのクラスメイト
|