今日も、いい天気だった。

―幻想クライシス―

青く澄んだ空を見上げて俺はため息をついた。
ジジイか、俺は・・・。
そして同じように空を見上げるに視線だけを向けた。


「なぁ、今日いい天気だな」
「そうですね、今日はきっと星空が綺麗ですよ」


「そうだなぁ」と返事をして俺はに顔を向けた。
今はまだ、の仕事の時間じゃない。
こいつは夕方、太陽が沈んでから出勤するのが常だ。
女物の着物を緩い感じで着ているは髪を緩く三つ編みにしていた。
「仕事以外でもそんな格好するのか」と聞いたら、「もうじき仕事ですから」と返事が返ってきた。
それ以上のことを言わないので俺は勝手に「女モード」なんだろうなと解釈した。


「旦那、今日はお店に来てくれますか?」
「ん〜どうだろうな、気が向いたらな」


「楽しみに待ってます」と言っては笑った。
その笑顔を見ていると「今日、行こうかな」なんて思ってしまうので不思議だ。
俺はこいつが男だってこと知ってるのに、気がつくとその事実を忘れてしまっている。
俺が悪いんじゃない、こいつが悪いんだ、益々綺麗になっていくこいつが悪いんだ。
は俺の知らない内に美人に磨きがかかっていった。
会う度に笑顔が眩しくなって、声が明るくなって、存在が儚くなった。
俺は、その理由に気がついた。
俺はが綺麗になっていく理由に先日気がついたんだ。


「お前のこと、好きだぜ」
「旦那、実は酔ってらっしゃるの?」
「まぁ、友情と言う名の愛情だけどな」
「嬉しいです、銀時さんとお友達になれて」


「銀時さん」と言われたのは初めてだったので、俺は少し戸惑った。
嬉しさと気恥ずかしさがこみ上げてきて、同時に後悔が襲ってきた。
俺とは「友達」なんだ、「友人」なのだ。
だって、には、を綺麗にさせる人が居るのだから。
そう思って俺は苦笑した。
俺、のことやっぱ好きだったのかなって。
でも、それは友情なんだよ、今からそう言い聞かせることにする。


はさ、好きな奴とか、いいんの?」
「好き、ってお友達って言う意味じゃない、好き、ですか?」
「そうそう、それ」
「どうなんでしょう・・・自分じゃはっきりとわからないです」
「お前のことだぞ、お前以外の誰にわかるって言うんだよ」
「俺は・・・礼儀正しくて、明るくて、気が利いて、優しい、そんな人は好きなんです」


が「俺」と一人称を変えたので、それは男としての意見だったのだろう。
男としてが好きな奴のことを言ったのだと俺は思った。
そして俺はその条件に該当する女を知っていた。


「たま、だろ?」


俺はそう言っての目を見た。
相変わらず綺麗な瞳だ。
は少し驚いた様子だったが、優しく笑うと俺から視線を外して空を見上げた。
もうじき日が暮れる。
空は遠いところから青味を帯びて、紫に見えた。


「俺は、たまが好きなんだと思います」
「あぁ、何となくそう思ってたよ」
「旦那にはバレてましたか」


は笑みを浮かべていたが何となく寂しげな雰囲気だった。
俺は「あいつはカラクリだぞ」と言った。
その言葉を聞いては頷いた。


「知ってます、わかってます、理解はしてるんです」
「たまに恋愛感情があるかわからねぇし、あいつとじゃ子供も作れねぇ」
「生産性を求めてたら、こんな商売してませんよ」


眉を下げて笑うは何だか泣きそうに見えた。
そうさせているのは紛れもなく、俺なんだけど。
俺は嫌味でこんなこと言ってるんじゃない、たちのことを思って言ってるんだ。
でもそれも結局は俺のためのような気がして、言葉にはしないが。


「彼女のこと好きなんです、カラクリとか関係なく」


そう言っては「もうそろそろ行きますね」と会釈をして俺に背を向けた。
俺は「あぁ、頑張れよ」と声をかけた。
はそれに振り返って手を振ってくれたので、俺も振り返す。
段々と寒色に染まっていく空からの柔らかい太陽の光を受けての影が伸びていた。


「あぁ、知ってたさ」


お前に好きな奴が居るってこと、それがたまだってこと。
見てればわかるさ、銀さんをなめんなよ。
俺は惚れた奴の幸せをきちんと願える男さ、だから・・・。
お前たちには、幸せになってほしいんだよ。



(その日の夜、が事故に遭ったと聞いて俺は唇を噛み締めた)